3−2 地盤の増幅率


(2)解析結果

 増幅率の計算結果の例を、図3−15図3−16図3−17に示す。図3−15は火山泥流が厚く堆積するみたけ4丁目(ボーリング番号480)の例で、地表下4mまではN値が1〜2と非常に軟弱なシルト・粘土層で推定S波速度も90m/s程度と遅い。4m〜10mは砂混じり粘土で推定S波速度190m/s程度(地盤モデルは局部的にN値が異なったため2層に区分しているが、モデル的には差異はない)である。10m〜38mは礫混じり粘土でN値は10前後と小さいものの推定S波速度は280m/sとかなり速い。地表下40m以深がN値50以上の堅固な礫層で、推定S波速度473m/sの基盤と見なした。各地盤相互の地盤定数のコントラストによりいくつかの周波数で増幅のピークが認められるが、最も増幅される周波数(増幅卓越周波数)は4.45Hz、増幅率は6.37倍である。図3−16は高松3丁目(ボーリング番号121)の例で、地表下14mまで段丘堆積物のシルト・粘土が分布する。同22mまでは風化したシャールスタインでS波速度は260m/sと見積もられ、それ以下のチャートを基盤と見なした。増幅卓越周波数は2.85Hzとみたけに比して低く、増幅率も4.79倍とやや小さい。図3−17は西松園3丁目(ボーリング番号24)の例であるが、この地点は表層が薄く地表下6mに基盤となる風化した頁岩層が分布する。そのため、増幅卓越周波数は7.60Hzと高く、増幅率は4.56倍とやや小さい。

 図3−18に周波数が1〜10Hzの範囲での増幅卓越周波数(増幅率の最大値を与える周波数)の分布を示す。ごく一部に増幅卓越周波数が2Hz以下の地点が点在するが、ほとんどは2〜10Hzである。2〜6Hzと6〜10Hzとに区分して図には示しているが、両者は混在して分布しており、地域的な対比は難しい。これは地震波の増幅が大局的な地質構造はもちろんであるが、地盤物性の異なる地盤構造に強く依存しているためであると考えられる。

 図3−19に1〜10Hzの範囲での増幅卓越周波数の増幅率の分布を示す。増幅率の範囲は2〜7倍と広範囲にわたっており、地点的な対比は難しいが、増幅率が5倍以上の高い地点は青山・みたけ・厨川・上堂・高松・上盛岡駅付近・仙北町などに分布する。図3−20に周波数範囲を2〜6Hzとした場合の増幅率の分布を示す。これは、前述の木造家屋の固有周期に対応させたもので、2〜6Hzに増幅卓越周波数が存在しない場合は2〜6Hzの範囲での増幅率の最大値を取り上げたものである。2〜6Hzに増幅最大周波数が含まれていない測点での増幅率が小さくなるが、分布の傾向は0〜10Hzでの傾向とほとんど変わらない。増幅率が5倍以上の高い地点は青山・みたけ・厨川・上堂・高松・上盛岡駅付近などに分布する。一方、増幅率が2倍以下と小さな地点は太田・本宮・馬場町・肴町・内丸・加賀野などに点在している。

 増幅率の理論計算手法は完璧なものではもちろんなく、また計算に用いた地盤情報も推定の域をでないものであるから、得られた増幅特性が充分に正確なものでないかもしれない。短周期微動特性も微動の本性が必ずしも明確にされていないものであり、本章で取り上げた地盤振動特性が地震時の被害分布を厳密に反映しうるかは不確かである。しかし、短周期微動の2〜6Hzパワー値の総和の大きな区域に増幅率の大きな地点が包括されており、これらの地域は他地域に比して地震時の揺れが大きく、家屋の被害も生じやすいことを示唆しているものと考えられる。


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