4−1 調査・解析方法


 地震時の揺れの程度は、地盤構造などを異にする狭い区域ごとに異なることが知られており、被害想定・防災対策のためには細分化された地区ごとの揺れの特性を把握することが必要である。区域ごとの揺れの特性を知るためには、多数の地震計を設置すればよい。しかし、深度の観測は気象台や測候所を主に行われており、岩手県においても盛岡地方気象台・宮古測候所・大船渡測候所の他3箇所で震度の観測が行われているのみである。今後、各市町村に強震計の設置が進められることとなっているが、詳細な区域ごとの震度分布を把握するため、例えば盛岡市域に何千台もの地震計を設置することは現実的でない。そこで、地震時における揺れの程度を地域住民に聞き取り調査を行い、震度を推定する方法が検討され、被害地震のたびに調査が行われるようになった。

 現在、確立した手法として実施されるのは、太田方式(太田ほか:1979)と呼ばれるもので、本調査でもこの内容のアンケート調査を実施した。表4−1に調査用紙を示すが、総質問項目35からなる。うち質問2から10までの9項目が回答者の所在地・建物の構造や階数・建物の新旧など回答者の位置や環境を知るためのもので、質問11から32まで(19を除く)の21項目が震度を計算するための揺れの特徴を問うもので、残り5項目が回答者の性別・年齢その他に関するものである。震度の計算には表4−2および表4−3に示す震度係数と条件係数が用いられる。条件係数は回答者の位置による揺れの違いを補正するためのもので、築10年未満の木造家屋の1階を基準として震度を算出する。震度係数は各質問項目ごとに回答した内容に基づき震度を算出するための係数で、過去の地震時における調査検討から統計的に決定されたものである。これらの係数に基づき回答者ごとの震度が次式で算出される。

ここで、 IQ : アンケート震度
     α : 条件係数
     mi : 質問項目 i において回答者が答えた内容番号
     Ne : 震度に関する質問項目のうち有効回答数
     βi : mi に対応する震度係数
算出された震度は気象庁震度階とはことなるアンケート震度階(IQ)であり、次式によって気象庁震度階(IJMA)に換算する。

IJMA=2.958×(IQ−1.456)0.547  ・・・(4.1.2)

 アンケート調査は回答者への面接によって行うことが望ましいが、地震発生直後できるだけ速やかに大量の回答を得ることが必要なため、教育委員会の理解を得て、小中および高等学校に協力をお願いし生徒を通じて父兄に記入してもらうかたちが一般的である。図4−1に調査・解析の流れを示す。集計はどの程度の範囲を対象とするかによって異なるが、市町村単位での震度解析は行政区単位で集計を行う。さらに詳細な区域別震度は250m四方を基準としてメッシュを切り、回答者の所在地がどのメッシュに位置するかを割りだし、メッシュごとの平均震度を算出する。この際に、回答者が対象区域にいなかった場合、所在地の記載が曖昧な場合は解析対象から除外される。また、回答項目が著しく少ない場合は、回答内容に明らかに矛盾が認められる場合は、震度の推定に疑問があるものとして除外することとする。なお、細分化した区域は250mメッシュと呼称しているが、盛岡市域における実際の大きさは、2万5千分の1地形図の経緯度線を基準としてそれぞれ40分割した範囲を一区画としている。すなわち、東西は約267m、南北は約230mである。

 アンケートは回答者一人一人の体感によるものであるため個人差が含まれることは避けられないので、同一メッシュには出来るだけ多数の回答が得られることが望ましいことはいうまでもない。しかし、対象とする回答者数を無限に拡大することは調査・解析の作業からして限度があり、その兼ね合いを踏まえて調査規模が決められる。

 アンケート方式により区域ごとの揺れの違いを調べる際には、震度が小さい場合には顕著に差異が現れないため、震度が大きな場合が望ましい。近年、盛岡で震度4および5を記録した以下の3回の地震を対象にアンケート方式の詳細震度調査を実施した。
1987年 1月 9日  岩手県中部沿岸地震・・・盛岡震度5
1994年10月 4日  北海道東方沖地震・・・・・盛岡震度4
1994年12月28日  三陸はるか沖地震・・・・・盛岡震度5


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