3−1 短周期微動特性


(3)解析結果

 盛岡市域で解析された短周期微動のスペクトルは、低周波を主とするもの、高周波を主とするものなど種々のものがあるが、大別すると以下の5つに区分することができる。なお、微動には様々な周波数成分が含まれており、それぞれの波のエネルギーの強さを周波数ごとにあらわしたものがスペクトルである。
  Aタイプ: 2Hz以下に単一のピークのあるもの
  Bタイプ: 2Hz以下および2〜6Hz程度にそれぞれピークのあるもの
  Cタイプ: 2〜6Hzに単一のピークのあるもの
  Dタイプ: 2〜6Hzに多くのピークのあるもの
  Eタイプ: 6Hz以上の高周波に著しいピークのあるもの
 図3−3に各スペクトルごとの観測波形の例を、図3−4にスペクトルの例を示す。観測波形における縦軸は速度振幅で、右肩の数値がスケールを示している。E-05kineは×10-5kineを意味する。なお、揺れの大きさ(振幅)は、変位・速度・加速度等によって表現されるが、ここで解析されている振幅は速度振幅であり、1kineは1cm/secである。また、スペクトルの縦軸は波のパワーで、各スペクトルごとに最も強い周波数のパワーを1として基準化しているのでタイプごとの最大値は同じではない。各スペクトルのパワーの値はスペクトルの右肩に、最大パワー値をとる周波数(卓越周波数)とともに揚げてある。単位はmkine2/secである。2Hz以下の周波数が卓越するAタイプは他のタイプに比較して振幅が小さい。微動の本性については必ずしも明確ではないが、地盤に入力した各種周波数の振動のうち、地下の弾性波速度・密度を異にする地盤の境界で反射を繰り返し増幅された波が大きなパワーをもって地表で観測されると考えられている。沖積・洪積層が堆積する平野部では地表下浅部にコントラストの大きな地盤の境界が存在するため、高周波が卓越しかつそのパワーも大きい。

 図3−5に東西成分の卓越周波数分布、図3−6に南北成分の卓越周波数分布、図3−7に上下動成分の卓越周波数分布をそれぞれ示す。水平動2成分は類似した傾向を示している。松園から山岸・米内・浅岸・新庄・東中野・手代森にかけての市域の東部の山地一帯および太田では1Hz以下(周期1秒以上)のやや長周期成分が卓越する。その他の地域はほとんどでは2〜4Hzが卓越する。神子田・内丸・加賀野・三ツ割等の一部に4Hz以上あるいは6Hz以上の高周波が卓越する区域が散在する。

 水平動成分の微動がSH波(水平方向に振動する横波)の重複反射によって増幅されたものを主とするものであれば、卓越周波数が高いことは地表下浅部に速度コントラストの大きな地盤境界が存在し、表層が大きな横波速度を有するか、表層が薄いことに対応する。東部一帯は山地に属し、地表にまで基盤岩類が分布しており、特定の周波数成分を増幅させるような地盤を形成していない。周期1秒以上のやや長周期の微動は脈動といわれ、大洋の波浪が日本列島をゆすぶることにより生じていると考えられている。脈動の振幅は短周期の微動に比して振幅が小さいものの、東部一帯では短周期の成分が増幅されていないため、脈動成分が相対的に卓越しているものと考えられる。本測定は短周期微動を測定の対象としており、固有周期1秒の地震計を使用しているため1秒より周期が長くなるにつれて感度は著しく低下する。実際には周期5秒以上の脈動が卓越しているものと推測される。概略的な地質構造の解析や重力探査結果から基盤岩は市域の西部に向かって深くもぐり込んでいるものと推定される。太田地区等では砂礫層が厚く基盤深度が深いことにより長周期が卓越しているとも解釈される。

 上下動成分の卓越周波数は水平動成分と類似している。分布も水平動成分と著しい差異はないが、周期1秒以上の区域が市域の東側の山地一帯から基盤岩が地表下浅部に分布する市中央部にまで広がっており、また西南部では北西部の山地を除いて見出されない。

 図3−8に東西動成分の平均最大振幅の分布を、図3−9に南北動成分の平均最大振幅の分布を、図3−10に上下動成分の平均最大振幅の分布をそれぞれ示す。平均最大振幅は水平動成分で0.001〜0.3mkine、上下動成分で0.001〜0.02mkineの範囲に大部分が分布する。水平動2成分hの振幅および分布は類似している。松園から三ツ割・山岸・加賀野・東新庄・中野・手代森にかけての市域の東側一帯では0.03mkine以下と振幅が小さい。また、滝沢村の山地部分など西端部にも0.03mkine以下と振幅が小さい地区が見られる。一方0.1mkine以上と振幅の大きな区域が北西部の前九年・大新町・上堂・青山・月が丘・みたけに広く分布する。特に0.2mkine以上と大きな区域が大新町・前九年・上堂の一部に見られる。また、津志田・三本柳の一部にも局部的に0.1mkine以上の区域が点在する。前述のように、都市近郊における微動の入力源は車両の通行・工場・人間活動などの人為的振動源と考えられ、盛岡市域においては車両の通行などの貢献が大きいと推測される。測定がなされた深夜の時間帯においては、国道など幹線道路とともに市街地での交通が大きな振動源と考えられるものの、旧市街地一帯では振幅が小さく、やや郊外に位置する北西部で振幅が大きい。入力レベルが同様であれば、表層地盤が軟弱な場合に微動の振幅は一般に大きい。北西部地域一帯に比較的軟弱な火山泥流堆積物が厚く堆積することと整合していると考えられる。上下動成分の振幅は水平動成分に比して一般に小さいが、分布の傾向は類似している。

 地震時の揺れの特性は、地盤固有の振動特性と密接に関係している。通常の木造家屋の固有周波数は2〜6Hz程度であり、地盤の卓越周波数がこれに近い場合には地震時の倒壊率が大きいとの報告がある。図3−11に過去の地震時(1944年東南海地震・1949年福井地震・1964年新潟地震)における木造家屋の被害率と微動の卓越周期との関係(金井:1976)を示すが、地盤の卓越周期が0.2〜0.5秒での倒壊率が大きい。もちろん、家屋の振動の固有周期は階数、新旧、建築手法などの様々な要件によって異なるものであるし、高層建築の固有周期はより長い値となる。ここでは一般的な固有周波数範囲として2〜6Hzと取り上げて、その周波数帯での振動のパワーを示す値として、2〜6Hzパワーの総和を求めた。

 図3−12図3−13図3−14に、東西動・南北動および上下動成分の2〜6Hzパワーの総和の分布をそれぞれ示す。パワー値の単位はkine2secで、図では×10-9kine2secとして表示している。水平動成分と上下動成分とでは、パワー値の範囲が異なり、一般に平均最大振幅の大きい水平動成分が大きいが、全体的な分布の傾向に大差はない。パワー値の特に大きな区域は、前九年・大新町・青山・みたけ・厨川・上堂・高松などに連なって分布し、南仙北にも局部的に大きな地点だ見られる。一方、松園から山岸・米内・加賀野・新庄・東中野にかけての東部の山地部分では特にパワーが小さく、また、市街地の中でも内丸周辺等に小さな区域が点在する。2〜6Hzパワーの総和は、いずれの成分でも平均最大振幅と強い相関があり、平均最大振幅の大きな地域で2〜6Hzパワーの総和が大きい。これは、市域の多くで卓越周波数がこの周波数範囲に含まれるためである。

 地震時において、地震波に2〜6Hzの周波数帯における振動が多く含まれる場合には、表層地盤により同周波数帯の振動が増幅され、木造家屋に被害を生じる可能性が大きいと考えられる。地震時の揺れの特性が微動特性のみに依存するものではないが、微動の2〜6Hzパワー値の大きな区域(盛岡市域では平均最大振幅の大きな区域にほぼ対応)は、地震時に建物被害を生じやすい区域を想定する目安の1つとなしうると考えられる。


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