1−4 岩手県内における活断層の分布と活動の可能性


 地表で過去200万年以内に活動した形跡のある断層は活断層と称される。これらは地表下浅部で地震を発生させた断層が地表に現れたもので、近い過去における地殻内地震の証拠とでもいうべきものであるとともに、今後繰り返して活動する可能性を示唆するものでもある。1995年兵庫県南部地震においては、淡路島の北端を源に破壊が生じ、野島断層という活断層が地表で約10kmにわたって横ずれ最大1.7m、垂直最大1.3m変位したことが明らかにされている。

 活断層は全国至る所にあり、まだ確認されていない活断層も存在するであろうし、さらに新たな活動により断層が生ずる可能性もある。これまでの調査研究で存在が確認あるいは推定される活断層の分布は、東京大学出版局による「日本の活断層」に集大成されている。同書によると岩手県内の活断層は盛岡市から水沢市に至る北上川の西縁部、雫石盆地の西縁部および沢内村から湯田町にかけて分布している。北上山系から三陸沿岸にかけては活動の可能性があるリニアアメント(確実度IIIと低い)がいくつか指摘されているのみで、特に留意する必要性は低いと見なされる。沢内村から湯田町にかけての活断層は1896年陸羽地震によって生じたもので、沢内村の川舟断層は大荒沢から猿橋にかけて約10kmにわたって確認され、大規模なトレンチ調査も実施されている。これら陸羽地震による活断層は100年前というごく近い過去に生じたものであることから当面活動の可能性はないといえる。

 盛岡市から花巻市にかけての北上川に沿った平野部(北上低地帯)の西縁部の活断層および雫石盆地西縁部の活断層は、活動した場合には盛岡市域で地震災害を発生させる可能性がある。図1−11に岩手県西部から秋田県にかけての活断層の分布を示す。
活断層の発見・認定には航空写真などから線状に続く谷地形や崖・異なる種類の地形の境界などの地形的に続く線状構造(リニアメント)を抽出し、面状をなす基準地形面(段丘面・侵食小起伏面・火山斜面など)や基準地形線(旧汀線・段丘崖・河谷の谷筋・稜線など)がリニアメントを境にくいちがっていることを確かめることによって行われる。また、断層運動による特有の断層変位地形(断層崖・低断層崖・地溝・地塁・横ずれ尾根・横ずれ谷など)からも認定される。そのため、活断層であることが確実なものから可能性があると推定されるものまで確実度に差があり、一般には以下の三段階に区分されている。
 ●確実度 I : 活断層であることが確実なもので、断層の位置や変位の向きが明確なもの。
 ●確実度 II : 活断層であることが推定されるもの。すなわち、断層の位置や変位の向きが推定されるが、Iと判定するには決定的資料に欠けるもの。
 ●確実度 III : 活断層の可能性があるが、変位の向きが不明であったり、他の原因でリニアメントが形成された疑いが残るもの。
 また、活断層の活動の程度を活動度と呼び、認定に用いた第四紀の基準地形や第四紀層の変位量をその形成時から現在までの年数で割った平均変位速度で以下のように表している。
 ●活動度 A : m/1000年のオーダー
 ●活動度 B : 0.1m/1000年のオーダー
 ●活動度 C : 0.001m/1000年のオーダー
 断層の変位量は上下成分と水平成分に分けて測定されるので、変位量は両成分の合成値を用いるべきであるが、表に記載の値はいずれかの成分の値から求めたものである。活動度は地震の発生間隔や今後の地震活動の推定のため重要な指標であるが、実際には変位量がわかっていても変位基準の形成時が不明であるため平均変位速度が求められないなど、把握できない場合も多い。
 活断層の存否、断層運動の様式、断層運動の発生時期と活動間隔、個々の地震の規模などを明確に把握するには、断層の通過している場所に調査溝(トレンチ)を掘り、その断面や平面の観察を行うことが最も確実な方法である。しかし、多大な費用と時間を要するため、1990年までに我が国で実施された地点は28箇所に留まっている。表に挙げた北上川西縁部および雫石盆地西縁部の活断層のうち、トレンチ調査が行われたのは、上原断層群の浦田断層(14c)のみである。トレンチ調査は紫波町土館地区で1983年に地質調査所によって実施され、4000〜7800年前に最新の活動があったことが確認されているが、深さ3m程度の小規模なもので、今後の活動の規模や可能性については必ずしも明確にされていない。
 確実度 I と活断層であることが確実な松森山西方、三ツ森山断層上原断層群、西根断層群は、盛岡市街地から約20kmの距離に位置する。また、南昌山断層群は市街地から10km程度であり住宅地も隣接する。滝沢西断層および鵜飼西断層は確実度 II ではあるが市街地から数kmと近く、住宅地に隣接する。これらの活断層が動いた場合には、断層に近い地区を中心に盛岡市域でも震度6以上の揺れで家屋の倒壊を含むかなりの被害が発生すると予想されるものの、各断層の活動規模・履歴など不明確な現状で、被害程度およびその分布の推定は困難である。但し、活断層そのものの数は阪神地区などに比して著しく少ないこと、ごく近い将来にこれらの活断層が被害地震を引き起こす可能性は確率的には少なく、むやみに不安を抱くべきではないと考えられる。
 阪神淡路大震災をきっかけに、全国の活断層の調査が計画され、平成7年度補正予算により、科学技術庁が全国18都道府県および政令指定都市で本格的調査を実施することとなっている。岩手県でも、雫石西縁および北上低地帯西縁部での調査が予定されているが、一部の断層に限られるものである。防災対策のためには、今後活断層調査を継続的に行い、各断層の近い将来における活動の規模およびその可能性について明らかにすることが必要である。

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