2−3 地質


 岩手県による土地分類基本調査盛岡5万分の1表層地質図(1978)によると、本地域の地質は北上川によって東部・中部・西部の三つに大別される。東部は北上山地北部型古生層がNW-SEの走向で垂直に近い傾斜をもって分布し、古生層を貫いて花崗岩類等が各所に見られる。中部は北上川・雫石川等によって形成された沖積層・洪積層が広く分布する。これらは河川が運搬・堆積した砂礫を主体とし泥をはさんだりしている。沖積層は河床を含む沖積地・谷底平野とこれに付随する低位段丘の構成物である。北上川・雫石川の二大河川に発達する低位段丘は洪積層が主要構成物と考えられる。西部には第三系火山岩類・集塊岩等が分布する。北西部一帯を覆って分布する火山砕屑物は降下火山灰の他に泥流として低地を埋めている。図2−3に表層地質図を、表2−1に層序区分を示す。

表2−1 層序区分(北上山系開発地域土地分類基本調査、盛岡:1978による)

地質年代 岩層名 岩石の種類 固結の状態
新生代 第四紀 沖積世 現河床堆積物
扇状地・段丘堆積物
崖錐堆積物
砂・礫・泥
砕屑物
火山砕屑物(ローム)
未固結
安山岩質岩石 固結
洪積世 段丘堆積物
扇状地堆積物
志和層
砂・礫・泥
火山砕屑物(ローム)
未固結
安山岩質岩石 固結
新第三紀 中新世 男助層
幕館層
集塊岩、安山岩質岩石
流紋岩質岩石
固結
中生代 白亜紀 姫神花崗岩体 花崗岩質岩石
蛇紋岩質岩石
固結
古生代 二畳紀 北上山地北部型古生層 砂岩
頁岩・粘板岩
珪岩質岩石
輝緑凝灰岩
固結
 本地域の中央部、盛岡市中心部から滝沢村にかけては、大上ほか(1977)がボーリング資料に基づく解析から、表2−2に示すような層序区分を行うと共に、一部断面線に沿った地下構造を明らかにしている。すなわち、以下のように下位より基盤岩類、盛岡夾炭層、古北上川・雫石川堆積物、青山町火山泥流堆積物、段丘堆積物および河岸低平野(低地)堆積物に区分している。

表2−2 層序区分(大上ほか:1977 による)

地質年代 地層名 岩相
新生代 第四紀 完新世 河岸低地 砂礫・砂・粘土
更新世 上田段丘 砂礫・粘土
(分火山灰・小岩井火山灰) 火山灰
高松段丘 砂礫・砂・粘土
(渋民火山灰) 火山灰
黒石野段丘 粘土質砂礫・ローム質砂礫・粘土
青山町火山泥流堆積物 ローム質砂礫・凝灰質シルト・砂・泥炭
古北上川・雫石川堆積物 砂礫
新第三紀 鮮新世 盛岡夾炭層 砂岩・シルト岩互層・¥、亜炭・凝灰岩
礫岩
基盤岩類 輝緑凝灰岩・粘板岩・チャート
ホルンフェルス
花崗岩
(1)基盤岩類
 基盤岩は古生界、花崗岩および新第三系から構成される。古生界の一部は花崗岩の貫入によりホルンフェルス化している。古生層は輝緑凝灰岩を主とし、粘板岩・チャートをはさむ岩相からなる。北東部の黒石野・松園などに広く分布すると共に北大橋付近の北上川沿いに露出している。ボーリング資料によると、本層は滝沢村巣子・青山町においては地表下100m前後、黒石野・高松付近で30〜60mの深度で分布が確認されている。ボーリング資料で確かめられた岩相はほとんど輝緑凝灰岩で一部に粘板岩を介在し、またホルンフェルスも認められる。
 花崗岩は北山・新庄などに局地的に露出すると共に、中ノ橋付近の中津川の河床に露出している。ボーリング資料によると低位段丘地域の市街地の大部分で花崗岩が基盤をなしていることが認められた。これら古生界および花崗岩の分布が確かめられた地域の基盤岩分布図を図2−4に示す。
 新第三系は中新統岩手層群と鮮新統盛岡夾炭層から構成され、地表には本地域の西部に火山角礫岩および凝灰角礫岩からなる岩手層群飯岡層および男助層が分布している。ボーリング資料によると北上川の左岸部地域においては盛岡夾炭層が基盤の古生層・花崗岩上に分布していることが認められるが、同右岸部地域では中新統におよぶボーリングが少なく厨川で飯岡層と思われる火山角礫岩層が確認されているのみである。
(2)盛岡夾炭層
 ボーリング資料によると、砂岩・シルト岩の互層に亜炭・凝灰岩および礫岩を介在する岩相を呈する地層が段丘堆積物および古北上川・雫石川堆積物の下に存在する。本層は調査地域西南部の脊梁山地の東縁部に沿って南北に帯状に分布する更新統志和層(早川:1954)に相当する。志和層はその後木下・岩井(1966)、木下(1972)によって鮮新統三ツ沢川層、更新統松林寺層・日詰礫層に三分されたが、盛岡夾炭層は三ツ川層に対比されるものと考えられる。
 亜炭層の堆積状態から本層は先鮮新統からなる基盤の凹部を埋めるようにほぼ水平に堆積している。層厚は40〜50mで、ボーリング地点No.6に模式的に示される。図2−5に盛岡夾炭層が確認されたボーリング地点を示す。
(3)古北上川・雫石川堆積物
 ボーリング資料によると、盛岡夾炭層の上位に青灰色を呈する砂礫層が存在する。本堆積物は下位盛岡夾炭層を不整合に覆い、東側では古生層・花崗岩上に直接乗っている箇所も認められる。本層は上位青山町火山泥流堆積物によって覆われ、旧北上川ないし雫石川の河谷堆積物と考えられる。
 本層は北上低地帯の中央部からやや西よりの所で厚くなる傾向を示し、東西方向でみると東側20m程度中央部付近で50m程度の厚さを有する。ボーリング地点No.2およびNo.3に模式的に認められる。
(4)青山町火山泥流堆積物
 ボーリング資料によると、北上川右岸の市内青山町を中心に北方の滝沢村にかけて、風化火山灰に安山岩質の角礫や凝灰岩の礫を含む火山泥流堆積物が発達している。本層に相当する地層は、調査地域西方の滝沢村上篠木に基質が火山灰質砂で安山岩角礫や凝灰岩円礫を含み、基質中に層理が見られる未固結泥流堆積物が露出する。また、厨川の蛇ノ島付近の北上川河岸に本層中に介在する泥炭の薄層をはさむ凝灰質シルトが露出する。本層は泥流堆積物(ローム)を主とするが内部に凝灰質シルト・砂および腐植土(泥炭)を介在し、泥炭中から植物破片とともに昆虫化石を産出する。なお、本層は旧岩手山の山体崩壊による岩屑流堆積物とする指摘(中川:1987、土井ほか:1991)がある。
 本層は下位層を不整合に覆い、滝沢村巣子では直接古生層上に乗っている。ボーリング資料によると、雫石河以南の地域では欠除しているが、これは旧雫石川の浸食によるものと考えられる。層厚は約60mで、ボーリング地点No.6に模式的に認められる。
(5)段丘堆積物
 黒石野・高松・上田の各段丘はほぼ礫層から構成され、一部砂・泥の薄層をはさんでいる。各段丘とも堆積物の厚さは10〜15mである。黒石野段丘上には渋民火山灰・分火山灰、高松段丘上には分火山灰が乗っている。青山町一帯に分布する高松面は青山町火山泥流堆積物からなり、侵食段丘を形成しているが火山泥流堆積物上に分火山灰あるいは小岩井火山灰が乗る。
(6)河岸平野(低地)堆積物
 北上川および雫石川とこれらの支流が運搬した砂礫を主体とし、一部に泥をレンズ状にはさんでいる。礫は古生層のチャート・粘板岩、花崗岩および第三紀の火山岩類等で、鶏卵よりも小さく円または扁平なものが多い。現河床を含む沖積地・谷底平野とこれに付随する低位段丘を構成している。



 基盤に到達したボーリングは北上川左岸部に集中し、右岸部では飯岡層や盛岡夾炭層に到達したものがわずかにあるにすぎない。そのため、基盤構造は不明確であるが、いくつかの断面線に沿って地下地質構造が推定されている。図2−6に断面位置図、図2−7および図2−8に断面図、図2−9に柱状図を示す。O-A断面は盛岡駅付近から北方に北上川右岸を通って厨川に至るもの、O-A'断面は盛岡駅付近から北上川左岸を通って松園に至るもの、B-B'断面は滝沢村大釜から盛岡駅付近を通って加賀野に至る東西断面である。

 断面図から明らかなように、本地域の地質は古生界・花崗岩および西部のおそらく中新統からなる基盤の凹部を埋めて盛岡夾炭層が堆積している。地域内の盛岡夾炭層はほぼ水平層で低地帯に沿って第四系の基盤をなして分布しているものと推定される。古北上川・雫石川堆積物の砂礫の厚さが調査地域中央部より西方で厚くなることがうかがえ、その最厚部の位置は段丘堆積物を伴う現北上川の西方に位置する。この北上川の東側への流路の変更は、古北上川・雫石川堆積物の上位に累重する青山町火山泥流堆積物の西北方向からの押し出しに起因するものと考えられる。

 段丘堆積物は高位のものが北上川の左岸部にのみ発達し、上田段丘以下のものは両岸に発達している。この非対称に発達する段丘堆積物については、流路変更の原因になった青山町火山泥流堆積物が主に分布している青山町および厨川地区の高位段丘面が侵食段丘であることをふまえ、なお検討が必要とされている。

 さらに、その後の研究の進展に伴い、盛岡市付近から北部の北上低地帯を構成する堆積層については段丘区分を含め新たな知見が土井ほか(1996)などによって示されている。これらの成果もふまえて、本市域の地下構造に関しては、今後さらに調査検討が必要と考えられる。


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