2−5 表層S波速度の分布


 (1)横波(S波)速度の測定

 地盤の堅さを表す物理定数は剛性率であり、これを直接的に求めるにはS波速度を知ればよい。しかし、通常の弾性波探査においては、速度の速い縦波(P波)が先に到達し、S波の識別が困難なこと、純粋なS波のみを発生させ難いため測定は容易ではない。本測定では、板叩き震源を用い、ノイズを削除するためのスタッキング方式の探査装置を用いて盛岡市域での表層S波速度の測定を行った。

 図2−18に測定方法の概略を示す。S波の発生には長さ150cm・幅30cm・厚さ5cmで、地面との摩擦を高めるために幅3cm・長さ5cmのくさびを、50本打ち込んだ板を使用した。測線の両端に設置した板をかけ矢で打撃することによりSH波を発生させ、1〜2m間隔で設置したピックアップ(地震計)24個で地盤を伝播した地震波を捕らえる。地盤が一様であれば、震源から遠くに設置した地震計に波が到達するのに要する時間は距離に比例するが、地下に高速度の層が存在するときには、表層を直接伝播する波より地下の高速度層を伝播した屈折波が早く到達する場合が生じる。震源からの距離と伝播に要した時間との関係すなわち走時曲線から、はぎ取り法という解析手法により地下速度構造を求めた。図2−19に観測された波形の例を示すが、横軸は伝播に要した時間、縦軸は地震計の番号で1から24に向かって震源からの距離が遠くなる。S波の波形は板を打撃する方向で反転するため、左右両側で打撃し、S波の初動を確かめているまた、かけ矢の打撃によるエネルギーは必ずしも大きくないため、打撃を繰り返して記録を重ね合わせることによって信号を抽出している。図2−20に走時曲線および解析された地下速度構造の例を示すが、地表から6mまではS波速度100m/sと軟弱層があり、それ以下は710m/sとかなり堅硬な層が分布している。

 地下深部の速度構造を求めるためには、測線長を長くすることが必要であるが、市街地には長い測線を張ることのできる空間は少なく、また信号を遠方まで到達すべく火薬などを震源に使用することも難しい。今回は地表下浅部の構造を調べることを目的に、地震計間隔1〜2m、測線長24〜48mで測定を行った。可探深度(速度構造を解析しうる深さ)は、速度構造によって異なるが多くの測点では10m程度である。


くさびを50本打ち込んだ、震源用の板


かけ矢によって板の側面を打撃


S波探査に用いたデータ収録装置


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