4−2 1987年岩手県中部沿岸地震


(2)岩手県全域での高密度震度分布

 図4−2にアンケートを配布した学校単位での震度(気象庁震度階)を示す。なお、盛岡市域に関しては学校が多数あるので、図には250mメッシュにおける震度の代表的な値を示してある。得られた震度は3.7〜4.9の範囲にあり、震源に近い岩泉町・野田村・譜代村などで震度4.5以上と大きな値を示す。全体的に見ると震源から遠ざかるにつれて震度は小さくなり、北上川流域から西側一帯では4.0以下の値を示す。また、遠野市付近では震央から55〜70km離れているにもかかわらず4.5〜4.9と震度が大きい。

 地域ごとの揺れやすさの程度を比較するには、震源からの距離による減衰を考慮し、平均的な距離減衰式からの震度差を求める必要がある。今回の地震は震源の深さが72kmと深いことでもあり、岩手県内における各学校の震源距離(γ)と震度( I )との関係式
I=4.98−0.0078γ
を求めた。この式は、岩手県内の平均的な地盤における地震の減衰直線を与えるものとみなしうるから、各地点の実震度と標準震度との差を震度差(僮)と規定すると、僮の正負号が岩手県の平均的地盤と比較したときのその地点の揺れやすさ・揺れにくさを、絶対値がその程度を示すことになる。

 図4−3に岩手県全域における震度差(僮)の分布を示す。なお、図における数値の10分の1が震度差である。震度差は-0.3〜+0.6の範囲にあり、分布を見ると震央から約55〜70km離れた遠野市付近で震度差が+0.4以上と他地域に比して大きな揺れを生じている。また、+0.1以上の区域は三陸沿岸に局部的に分布する他、北上川沿い南北に県内を縦断して連なって分布している。一方北上川の西側から秋田県境にかけてと北上川東側の北上山地では震度差が-0.1以下の部分が広く分布している。アンケート結果に基づいて算出された震度差±0.1の差異がどの程度信頼性を有するかについては、震源からの距離減衰の推定方法とも併せてなお検討の余地があろう。しかし、震度差の分布が不規則ではなく、帯状に連なって連続的に見出されることは、図4−3が揺れやすさの程度の全体的傾向を表示するものであり、かつ、震度差が地下構造などの要因に支配されていることを示唆している。

 岩手県内の地質は北上川に沿って県内を南北に縦断する北上低地帯、その西側の脊梁山脈に至る区域および東側の北上山地に大別される。北上川およびその支流に沿っては第四系河岸平野堆積物が帯状に分布し、また、河岸段丘が発達している。北上山地は大部分が古生層とそれを貫く白亜紀の花崗岩からなり、一部に中生層・古第三系が見い出される。北上川の西側には新第三系のグリーンタフ等が広く分布し、八幡平・岩手山・焼岳・栗駒山等の活動による第四系火山噴出岩・火山岩層が南北に連なって分布している。図4−4に簡略化した岩手県内の地質区分と共に、図4−3に示した震度差が+0.1以上すなわち平均より揺れやすかった地域の分布を重ねて示すが、+0.4以上の区域は遠野盆地に、+0.1以上の区域は北上川に沿う第四系河岸平野堆積物の分布と対応している。盛岡市域は北上低地帯に位置し、大局的には平均より揺れやすい区域に包括されるものの、第2章で詳説したように区域ごとに地質構造を異にしていることもあり、震度差は細分化された区域ごとに異なっている。なお、図4−5に三陸はるか沖地震の本震(1995年12月28日、マグニチュード7.5)と余震(1996年1月7日、マグニチュード6.9)の際の宮古・大船渡および盛岡での震度と最大加速度を示すが、両地震とも震源から遠い盛岡での震度は5と震源に近い宮古および大船渡の4より大きく、最大加速度も盛岡が2〜3倍大きい。この値はあくまで気象台(測候所)の位置する地点でのものであるが、北上低地帯に位置する盛岡がより揺れやすいことを示している。


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